DeNAがエアーリンク社を買収し、旅行事業に参入した直後の2006年の話。

とんでもないことが発覚した。買収前にエアーリンクが運営していたあるサービスの利用者情報が外部からアクセス可能な状態で放置されていたのだ。その人数1,647名。カード番号などの決済情報はないが、氏名や電話番号、Eメール、生年月日が含まれる。買収時のシステム監査では、その危険な状態を見つけることができなかった。

すぐさま、親会社であるDeNAの経営陣が招集され、会議がはじまった。旅行事業の責任者の僕は、当事者であり、まな板の上の鯉。大変なことになったと思いつつ、内心どこかで興味深く、DeNA経営陣の判断を見守っていた。これを事件として公表するのかしないのか。判断は分かれうると思っていた。なぜか。

個人情報は確かに外部から閲覧できる状態だったが、実際に誰かに不正にアクセスされた形跡がログ記録からは確認されていなかったのだ。
それに、今から10年前の事件であり、個人情報保護法が施行されたばかり(2005年4月)で、百万人規模だったり、不正利用された場合など以外では、各企業の対応はまだ分かれていた。
さらに、既にサービス終了しており、被害なども報告されていない。しかもサービスの開発も開始も終了も、エアーリンクが買収され、DeNAの管理下に入る数年前のことだ。

正直、DeNAにとって初の買収案件として、ITと旅行それぞれの業界の注目を集めている中で、大きく公表する必要はないのでは、とも思っていた。もちろん、直接被害にあわれたご本人たちに連絡し、説明と謝罪をするのは前提としても。
経営陣はどう判断するのか。議論はどのように盛り上がるのか。

だが、予想に反して経営会議の判断は瞬時かつ明確だった。事実認識が終わった後、「それでも、やはり公表すべきですね」と誰かが発言し、皆が頷き、その場で公表が決定されたのだ。対策本部の設置が決まり(確か川田さんが本部長だった)、DeNAからエンジニアが送り込まれて検証が行われ、その調査結果が出た4日後にただちに対外発表した。

http://dena.com/jp/press/2006/10/23/1/

このシンプルかつストレートな対応は、なかなか僕にとって驚きだったし、その後、仕事を行う上での姿勢を大きく決定づけたように思う。ロジックや経済合理性だけでの判断を超えた透明性、正直さという規範や美学を持つことで、常に自信を持って他者と会話をすることができ、その正直さで人材や顧客やパートナーを惹きつけることができ、競合との差別化要素にさえなっていく。遠回りのように見えて、そうではない。そして、何より気持ちがいい。そういったDeNAの経営判断を、12年の在籍の中で何度も見てきたし、このスタンスこそが僕がDeNAから得た最大の財産である。

DeNAを卒業して7年。現在、Quipperという会社を設立し、教育サービスを子どもたちに提供している。DeNAの時と同じように、チームには才能豊かな人材が集まり、様々な力のある企業や政府と協業をさせてもらっている。信頼こそ重要な教育領域で、そうやってまがりなりにも続けて来られた秘訣は、まさにDeNAで学んだ、誰に対しても情報を隠さないことと、変な駆け引きをしないことだと思っている。
もちろん、情報の伝え方には頭をひねるし、正当な交渉は妥協せずしっかり行う。ただ、ズルはしない。

南場さんはもちろん、守安もそのシンプルかつストレートな運営方針の旗手だった。その彼らが率いるDeNAの風土は変わっていないと信じたい。何が問題だったとしても、その結果を直視し、反省し、そこから学んでいく力と高潔さをDeNAは持っているはずだ。

振り返った時に、あの事件があったからこそ今がある、というような、自己を正し、さらに良い場にしていくチャンスにして欲しい。心から応援しています。

Quipper Ltd.
渡辺雅之

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名前:渡辺雅之
在籍:1999~2010
部署:事業企画
現在:Quipper Ltd.CEO
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Quipper Ltd.CEO

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